2017年  私の井戸

私だけの井戸

由美子は、急いで仕事帰りの支度をし帰ろうとすると、後輩の理恵が声をかけてくる。

「もう帰るんですか?」

「うん、ちょっと用事があって」

「あっ、デートですか?」

「それだったら、もう少しオシャレした洋服着てるわ」

「じゃあ、習い事か何か?」

「秘密」

「逆に気になるじゃないですか?教えてくださいよ」

「この歳になると秘密にしたいこともあるのよ」

「まさか・・・今流行りの不倫ですか⁈」

「それもないわ、とにかく残念ながら色恋じゃないの」

そう言って由美子は誇らしげに、職場を後にした。後輩の理恵に別に言ってもいいのだが、きっと本当のことを言ったら、きっと理恵はがっくりするかもしれない。でも、せっかくの楽しみを他人にとやかく言われたくない。楽しみや幸せは半減してしまう。

由美子は足早に目的の場所を急いだ。由美子は、ある場所で足が止まった。

由美子の目の前に広がるのは、車両基地。電車おたく達が、カメラを構えたりしているなか、お目当ての電車が車両基地に来るのを待っていた。由美子は、乗り鉄でもないし、特に電車にも詳しくない。でも、この車両基地で、今日来る電車は、由美子の思い出の電車だからだ。

乗り鉄たちが何気に話していたのを聞いてしまったとき、自分も見に行きたいと思ったのだ。

あの時代、あの頃の電車。学生時代の思い出が蘇る。

淡い青春。そんな昔を懐かしむ自分が、いかに歳をとったのか思い知らされる。

そう思ったとき、後ろから肩をたたかれ、振り向く由美子。

「君も見に来てるとは思わなかったな」

「・・・良介?」

「ああ」

「あの時の電車を見に来たの?」

「俺たちの青春だろ」

「なんかそう言われると、本当に古めかしく感じる」

由美子はそういうとクスっと笑った。

「おお、来たぞ」

思い出の電車を指さした良介の指先には、キラリと光る指輪が見えた。あの頃と違うのは、良介は結婚しているということ。ふと、理香の言葉が心を通過した。

私だけの秘密の場所、思い出に浸れるとっておきのところ。まさかそれを共有し始めたら、それは、今流行りの不倫の入口に入ってしまうのだろうか。それは、まるで終着駅がわからない電車に乗るようなものなのかもしれない。

「考えすぎかな」

「えっ」

「懐かしいね」

「ああ」

今だけは、考えるのはよそう。このとっておきの楽しみを味あうために来たのだから。きっと、良介との出会いは、今日のためのサプライズにすぎないのだから。

今日のテーマは、私だけの井戸

乾いた砂漠の中で惠みの井戸を見つけるように、心も体も満たされるような出来事が起こるでしょう。それは、他人からみるととるに足りないようなことですが、あなたはその特別な意味に気づくはず。幸福やときめきは、わかりやすい形で現れるとは限らないのですから。

由美子にとって、昔の思い出の電車をみることは、とてもあの頃の自分に浸れて、幸福なんだと思います。でもそれを理香に話したところで理解できない。由美子にとっての井戸は、思い出の電車、そしてその思い出の電車には、良介との思い出がつまっていた。ちょっと続きをみたくなるストーリーにしてしまいましたが、その人にとっての幸福やときめきは、違う。そして時代がすぎると、ときめくことも違うなるのかもしれませんよね。ましてや、今は流行りの不倫話に見せかけましたが笑。これも、由美子が、その後今の良介にときめくかは未知数。

 

だからこそ、人生はおもしろい。あなたなりの幸福やときめき、あなたの井戸はありますか?

 

 

 

 

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